以前、仕事で大阪近辺の老人ホームを訪問していたことがあった。
住宅型の老人ホームで外観は現代風な綺麗な7階建てマンションで要介護のレベルに応じて入居者の階が決まっていた。
僕の仕事内容は誰でもできるような簡単なリハビリがメイン。
会話しながら廊下を歩いたり、簡単な足の曲げ伸ばしをやったりと、内容的にはあまり専門的な知識は問われない。
自力で歩く事も難しい入居者が多く、ワンルームの狭い空間に加えてコロナの影響から入居者同士の会話も制限されており、一日中ベットに横になってテレビを見るくらいしかやる事がない状態にある。
しかし長時間ベットに同じ姿勢のままでいると褥瘡(じゅくそう)という、ひどい床擦れを起こして、ベッドに圧迫されて擦れている骨の出っぱりの部分の皮膚が赤くなって膨れて、それが破けたりして最悪放置していると組織が壊死してしまうこともある。
これを防ぐ為に定期的に体位を変換する必要があるんだけど、それを手伝うのも仕事内容に含まれる。
この体位変換が結構難しくて、下手にやると自分の腰を痛めそうになる。
先輩の鍼灸師の人にしっかりコツを教えて貰ったおかけでなんとか出来るようになった。
また寝たきりの入居者を動かす時に、グラップリングの技を応用できたりする。
四つでしっかり脇を差して持ち上げたり、体位変換するときにブラジリアン柔術のベースの取り方とかを応用して転倒したりするのを防いだりすることも出来たりして、僕の中では結構楽しかった。
そこでは「身のこなしだけはいいね!」って先輩から褒められたw
「だけは」ってなんやねんって心の中で小声でツッコミ入れながら笑顔で「あ!ありがとうごさいます!😃」って謙虚な好青年ぶって返事をした😊
こういう作業は鍼灸の領域ではなくて介護の領域になる訳だけど、転倒を防ぐ為には他にも様々に気を付けなければならない注意点が多かった。
入居者の多くは、認知症やパーキンソン病、脳梗塞による片麻痺などを患っており、それに伴ってうつ病を発症してる人もいる。
半強制的に引きこもりのような状態に置かれて、身動きも取れずただ死を待つような状態の高齢者は当然リハビリに対するモチベーションも低く、そもそも認知症などの影響で会話があまり成り立たない場合が多い。
僕が部屋に入ったら布団に隠れて、「もう何もしたくない」って感じで塞ぎ込んでたりする。
僕もそういう時は簡単に引き下がる訳にもいかないので「あ、別になにもしなくていいですよ」
と言ってしばらく部屋に留まってなにか話始めるまで待つようにしていた。
本来であればなんとか説得してリハビリを開始するようにしなければならない訳だけど、なんか仕事やってます感だして病んでる人と会話するのは嫌だった。
だからとりあえず何気ない会話から相手の記憶の断片を繋ぎ合わせて昔の楽しかった出来事などを思い出させるようにしたりして、なんとか情報を集めようとした。
何日も一言も喋らなかったおばあちゃんが突然僕の腕を物凄い力で掴んで過去の話をし始める時もあった。
多分、この人たちにとっては仲の良い友達が部屋に遊びにきてるみたいな感覚で、僕が気楽に部屋でゆったりくつろいでいる方がいいんだろうなって思った。
仕事として何パターンかの定型文を繋いで会話して上手く誘導する技術も大事だけど、自分はたまに部屋に来るくらいだしまぁそれでいっかって。
そして施設で働く介護士の人達のメンタルは強靭で、多少のハプニングには全く動じない。そして、その話し方には特有の優しさがあった。介護経験の乏しい自分にとってはめちゃくちゃ頼もしかった。
その施設ではしばらくの間訪問でお世話になったけど、コロナ情勢によって人数制限がかかり、僕は別の施設に変更されることになっ
た。
自分は最近物忘れが酷いからこうやって日記にしておくことにする。
おわり